ぼくらの丸刈り戦争 ぼくらの丸刈り戦争

 かつて、熊本市で丸刈り中学校と長髪中学校が拮抗していた時代がありました。

丸刈り校区と長髪校区は、複雑に入り組んでいました。

ぼくの家は丸刈り校区でしたが、10メートル先は長髪校区、50メートル左から先は長髪校区でした。

当然、小学校のクラスの中も、丸刈り校区と長髪校区2つに分かれました。

小学6年生の後半になると、中学生活に慣れておこうと、丸刈りで登校してくる男子が、クラスで2、3人出てきました。

いきなり、丸刈りになって登校してくる級友を見て、丸刈り校区の男子は、恐怖で真っ青になりました。

昨日まで一緒に遊んでいた級友の面影はまったく無く、代わりに悲壮感を漂わせた青々とした頭の別人が座っていました。

あまりにも凄惨な光景に身の毛がよだちました。

長髪校区に行く男子は、面白がって、「おまえも、そろそろ丸刈りにせよっ。卒業する前に、おまえの丸刈り頭を見

ちゃー」と言いました。

クラスの中の男子は、勝者と敗者のどちらかでした。明暗がはっきりしていました。

丸刈りに勝ったやつと、負けたやつ。運命と諦めるしかありませんでした。

どうしても丸刈りになりたくない男子は、九州学院付属中学か、熊大付属中学に行きました。

しかし、これも親しだいです。自分の力ではどうすることも出来ませんでした。

 中学校に入学すると、長髪中学に行った、かっての級友は、帽子を頭の後ろに軽くかぶり、髪を切っていないのを自慢しました。

ぼくたち丸刈りになった者は、帽子を深々とかぶり、丸刈りの頭を隠しました。

 休日には、長髪の中学生も、丸刈りの中学生も、同じ公園で遊びました。

そのような状況の中で、長髪の中学生の間で、丸刈り中学生の帽子を剥ぎ取るゲームが流行りました。

丸刈り中学生に背後から忍び寄り、いきなり帽子を取って「変な顔ハハハハ」と笑うゲームです。ぼくもやられました。

しだいに、公園で遊ぶのは、長髪中学校の生徒だけになっていきました。

ぼくが卒業した年、中学校は、強制丸刈り校則を廃止しました。

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