それは、数十年前。
中学校の入学式の前夜。僕は一人で床屋に行く。
おばさんにバリカンで髪を切られる。
自分の顔が、前の鏡に映っている。
自慢の天然パーマの髪が、あっという間に切り落とされ、丸刈りになる。
ショックで頭がボーッとしてくる。
現実感がなくなる。
家に帰ると、すぐに自分の部屋に駆け込む。
お母さんが、「どうだった」と聞く。
声が出ない。代わりに涙がボロボロ出てくる。止まらない。
中学校の入学式。男子生徒は、全員丸刈り。
見なれた友達も、みんな丸刈り。
僕の心は、恐怖と混乱でバラバラになる。
学校から帰る途中、目の異常に気がつく。
景色に色が付いていない。
文字どおり僕は灰色の世界に滑り落ちてしまった。
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